脳卒中で芸術に目覚める

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かつて脳卒中に倒れたトミー・マクヒュー(54)は今では毎日キャンバスに絵を描き、彫刻を彫り、そして詩を書いて過ごしている。彼の芸術的才能はまるで、脳卒中によって一気に解き放たれたかのようである。こうした脳の損傷による突発的な芸術的才能の発露という現象は、これまで世界でも2件しか報告されていない非常に稀なものである。トミーは数年前のある日、脳卒中(くも膜下出血)に倒れた。そして病院に運ばれて手当を受けて退院した後、それまで興味もなかった芸術への情熱が沸々と溢れ出し、彼を一気にアーティストへと変えてしまったというのだ。(写真はトミーの作品)


入院から10日後、トミーは病院を退院して自宅に戻ったが、そこでトミーは自分を迎えた妻の事すら誰のなのか認識することが出来なかった。


「みんながあの女性が私の妻だって言ったんです。手術後数週間はうまく物事を認識出来ない事があるとは言われてたんですが、とにかく私は自分自身が誰なのか、そもそも一体何なのか、それすらも分からなかったですね。自分がお腹がすいてることさえ分からなかった。それから言葉は急に激しい韻文のようになってしまったんです。そう、全てが韻文でしたね。」
火山、あるいは弾丸のように


退院後、トミーの面倒を見続けた彼の妻 - その女性は今は既に離婚している - は彼のしゃべることが理解できなかった為、しゃべる代わりに彼にペンと紙を与え、その言葉を理解しようとした。


「それから、私は自分が経験したことを、韻文にしてもの凄い勢いで書き始めました。そのときの私は、、まるで拳銃の中の弾丸のような気分でしたね。」


そしてそれからというもの、トミーの人生はそれまで興味も経験もなかった創作活動へと一気に向かい始めた。彼は鉛筆で何百というスケッチを描き、やがて家の壁に大きな水彩画を描き、それでも飽き足らず、彫刻さえも作り始めたのだ。


「今では毎日絵を描く事に10時間以上費やしています。逆に何を描こうか考えるのはたった10秒程ですね。」トミーはそうした思考はまるで分裂した何かを結びつけるような感覚だと話している。「それはちょうどジグソーパズルのような感覚です。まず私はその一部分だけを得て、それから他のパーツを次々と当てはめていきながら、再びまたそれを粉々にするような感覚、、、あるいは崖っぷちで壊れたレンガの上に立っているような感覚でしょうか。」


またトミー氏によれば、そうした感覚は彼のクリエイティビティそのものであると語る。


「それはエトナ火山の爆発であり、まるで美しい知性の泡のようなものです。それは私の周りを絶えずフワフワと飛んでいるんです。そして、私はそれが消えてしまう前にその中の一つを掴み取って、それを何とか忘れないようにするわけです。私はその中に飛び込み、何かを掴んで、粘土で人形を作り始めます。次には石から何かを作り、あるいは絵を描き、ふと座り込んでは詩を書き、あるいは鳥の羽から蝶さえ作るんです。」




人格の変化



またトミーは脳障害の後、彼の人格までもが完全に変化したと語っている。


脳障害に陥る前、トミーは自らの人生をして本当にひどい人生であった、と振り返っている。トミーはそれまで長期的なヘロイン中毒者だったのだ。しかし、脳障害から生還した彼は自らの女性的な感性に気づき、今では幸せな日々であると語る。


「自分が自分でいられることが何よりの幸せです。今現在の自分、今のトミーでいられる事が幸せなんです。皆が知っている以前の私ではありません。自分の脳に一体何が起こったのかは分かりません。ただ、ひとつ言えるのは、それがとてつもなく素晴らしいものだったということです。」


こうしたトミーの症状に関し、英ロンドン大学の神経生理学者マーク・リスゴー医師は以下のように語っている。


「詳しい原因はまだ分かりませんが、あるいはトミー(写真)を襲った脳障害が、彼の脳神経経路の脱抑制を引き起こし、それが彼のクリエイティビティを目覚めさせたのかもしれません。それが何であれ、彼の脳に眠っていた芸術的才能、それを抑止していた何かが脳障害によって開放され、一気に溢れでたんでしょう。こうした脳における芸術的才能の位置づけというのは我々自身まだ手探りの最中です。逆にこうしたトミーのような稀なケースから何か手がかりを掴むことも期待できるかも知れません。」


リスゴー医師は今後、他の心理学者らと共同して、このトミー・マクヒューのケースを詳しく調査し、論文として発表する予定である。


「今我々はトミーに対して様々な脳神経テストを行っているところです。そこから彼の脳内で一体何が起こったのか、手がかりを掴むことも出来るかもしれないからですね。」

共同研究を行う心理学者トム・ポラック博士は語った。


現在、トミーが描き上げた作品(写真)は地元の図書館や様々なギャラリーで展示されている。また今後は別名を名乗り、アーティストとして本格的に活動していくつもりであるという。


国際的アーティストのマリオン・カルムスさんはそうしたトミーの急成長を見守り続け、その驚きを語っている。


「彼はそれこそ何からでも作品を作り上げてしまうのよ。例えば二人で座って、おしゃべりしてるとするでしょ、彼はその間にも紙コップから作品を作り上げてしまうの。でも、かといって彼がこの短期間で技術的にも急成長したってわけじゃないわ。彼はダヴィンチやそうした人達とは違う。彼は今、ちょうど活火山みたいなものね。ものすごく情熱に溢れてて、次から次ぎへと溢れるように作品を作ってるわ。こういう経験はアーティストなら誰でも一度は経験することだと思うの。」


トミーは今後、ロンドンのダナ科学博物館で行われる創造力に関するシンポジウムに出席し、彼のクリエイティビティの発露についてリスゴー医師らと対談する予定であるとのこと。